2011年3月16日

星くず朗読会より

●平岡淳子から
内田樹の研究室 より
<以下引用>

「未曾有の災害のときに」

3月13日
東日本巨大地震から三日目。
朝刊の見出しは「福島原発で炉心溶融の恐れ」と
「南三陸町で1万人行方不明」。

16年前の大震災を超える規模の国家的災厄となった。
これからどうするのか。

このような場合に「安全なところにいるもの」の
基本的なふるまいかたについて自戒をこめて
確認しておきたい。

(1)寛容
茂木健一郎さんも今朝のツイッターで書いていたけれど、
こういう状況のときに「否定的なことば」を発することは
抑制すべきだと思う。

いまはオールジャパンで被災者の救援と、被災地の復興に
あたるべきときであり、他責的なことばづかいで
行政や当局者の責任を問い詰めたり、無能力をなじったり
することは控えるべきだ。

彼らは今もこれからもその公的立場上、救援活動と
復興活動の主体とならなければならない。
不眠不休の激務にあたっている人々は物心両面での
支援を必要としている。モラルサポートを
惜しむべきときではない。

「安全なところにいる人間」と「現地で苦しんでいる人間」を
差別化して、「苦しんでいる人間」を代表するような
言葉づかいで「安全なところにいる人間」をなじる
人間がいる。

そういうしかたで自分自身の個人的な不満や攻撃性を
リリースすることは、被災者の苦しみを自己利益のために
利用していることに他ならない。

自制して欲しい。

(2)臨機応変
平時のルールと、非常時のルールは変わって当然である。
地震の直後から各地では個別的判断で、さまざまな施設や
サービスが被災者に無料で提供されたし、いまも次々と
申し出が続いている。

こういうときこそルールの「弾力的運用」ということに
配慮したい。16年前の震災のとき、雑貨屋で私が
ガソリンストーブ用の燃料を買い求めてレジに立って
いたとき、「屋根が落ちて雨漏りがする」というので
ブルーシートを買いに来た女性がいた。

店員は私の燃料代は定価で徴収したが、彼女には無料で
ブルーシートを手渡し「困ったときはお互いさま」
と言った。

彼のふるまいは「臨機応変」のすぐれた実例だろうと思う。

(3)専門家への委託
オールジャパンでの支援というのは、ここに
「政治イデオロギー」も「市場原理」も関与すべきではない、
ということである。

国民国家という共同体が維持されるために必要な根源的な
資源のことを「社会的共通資本」と呼ぶということは、
これまでもここで繰り返し書いてきた。

森林や湖沼や海洋や土質といった自然資源、上下水道や
通信や道路や鉄道といった社会的インフラ、あるいは
司法や医療や教育といった制度資本については、
管理運営を専門的知見に基づいて統御できる専門家に
「委託」すべきであり、これを政治的理念の
実現や市場での取引の具に供してはならないという
考え方のことである。

災害への対応は何よりも専門家に委託すべきことがらであり、
いかなる「政治的正しさ」とも取引上の利得ともかかわりを
持つべきではない。

私たちは私たちが委託した専門家の指示に従って、整然と
ふるまうべきだろう。

以上三点、「寛容」、「臨機応変」、「専門家への委託」を、
被災の現場から遠く離れているものとして心がけたいと
思っている。これが、被災者に対して確実かつすみやかな
支援が届くために有用かつ必須のことと私は信じている。

かつて被災者であったときに私はそう感じた。
そのことをそのままに記すのである。


●高橋智之(ひげ☆ぼうず)から
谷川俊太郎「蟻と蝶」
「現代詩手帖」2008年8月号(思潮社)
全日本漢詩連盟 ウェブサイト より
<以下引用>

蟻たちはその小ささによって生き残った
蝶たちはその軽さによって傷つかなかった
しなやかな言葉もまた大地震に耐えるだろう
だが今は言葉を慎んで私たちのうちなる沈黙の金を
四大に伏した者たちに捧げよう

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